『劇場版 アーヤと魔女』

スタッフコメント

監督:宮崎吾朗

アーヤとは。
『アーヤと魔女』映画化の経緯と本作への想い

良い子じゃない――宮﨑駿と鈴木敏夫から次回作の企画として勧められて読んだ「アーヤと魔女」で惹かれたのは、主人公・アーヤのそんな点でした。ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんの作品は“清く正しく美しく”みたいな子は出て来ません。だいたいクセがあり、悪く言えば自己中心的、良く言えば主義主張がはっきりしていて、人のいいなりになんてならない。それどころか、アーヤは〈操る〉ことで周りを自分の思い通りにしていこうとする女の子。そこにこの作品の面白さを感じました。

ちょうどその頃、考えていたのが、今の子どもたちの生きづらさです。昔と比べて子どもの数はどんどん減ってきていて、当の子どもたちは一人で大人たちを相手にしないといけない。そんな中アーヤのように、頭を使い機転を利かせて大人を思い通りに〈操る〉ということが、今を生きる子どもたちに対するひとつのモデルになるのでは、と思ったのです。アーヤは決して良い子ではないかもしれませんが、悪い子でもない。自分の思い通りにしようとはしても、大人たちへ一方的に要求して奪う訳ではなく、「私もこれをやってあげるから、おばさんもあれをやって」とギブアンドテイクの関係を築きます。単なるわがままな女の子ではないんです。行動力も知識欲も向上心もある。鈴木(敏夫)プロデューサーが、「アーヤは吾朗くんそのものだ」と言っているのは、「口も性格も悪いから」ってことを言っているんだと思いますが、アーヤの持つような、意思を曲げずに周りを巻き込んで何かを形にしていく力が自分にもあるんだ、という褒め言葉として受け取るつもりです(笑)。

そもそもアーヤの〈操る〉という力は何なのか。それはコミュニケーション能力そのものなのかもしれません。相手のことを知り、どうすればその人に気持ち良く動いてもらえるか、どうすればお互いにいい結果が生まれるかを考える。アーヤはそれをいろんな角度から試していきます。そして、相手が言うことを聞かなくても、すぐにはへこたれない。自分のアプローチの仕方がダメだったと思うことはあっても、自分自身がダメだからなんて決して思わない。「私のどこが、ダメですか?」という今作のキャッチコピーですが、この言葉はメソメソしているようにも、開き直っているようにも受け取れます。その両面があるのがいいなと思いました。今の若者たちには、自己肯定感を失っている人も多いのではないでしょうか。アーヤのように、根拠のない自信を持って前に進むことも大事だと思います。

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フル3DCGへの挑戦

アーヤは、たくましいということではジブリヒロインらしくもありますが、したたかということではジブリヒロインらしくないかもしれません。それで言えば、今作が手描きではなく3DCGである時点で、スタジオジブリに対して皆さんが抱くイメージから外れているように思います。それでも今回CGを選んだのは、「山賊の娘ローニャ」というTVシリーズを作ったときに“こんなに芝居を表現することができるのか”と発見したからです。手描きのアニメーションでは、喋りながら振り向く…といったいくつかの動作が重なるお芝居を、絵を破綻させずに描くのは、アニメーターの技術を要する非常に難しい作業なのですが、完成したモデルを動かしてアニメーションしていくCGでは、同時にいくつもの動きを重ねても、絵としては破綻しない。またCGと言っても、「ローニャ」のときのようなセルルックを選ばなかったのは、今も現役で宮﨑駿が手描きアニメーションを作っているジブリで、わざわざ「手描きみたいな」CGアニメを作りたいとは思わないからです。CGをやるなら、フル3DCGしかない。ジブリの未来を考えるにしても、新しい挑戦が必要だと思って臨みました。

(宮﨑駿が「CGであることによって、解放されている」と言ったことを受けて)そのとおりなのだろうと思います。ジブリで手描きアニメーションを作るとなると、どうしても宮﨑駿や高畑勲の制作スタイルと比較され、「こうでなければならない」に束縛される。しかし、CGという全く異なるアプローチであれば、お手本がないからこそ好き勝手にやることができる。なので好き勝手ついでに、音楽も自分の好きなロックにしてみました。音楽の武部聡志さんも音響の笠松広司さんも思いきり遊んでくれています。音の良さと楽しさをぜひ劇場で味わっていただきたいと思います。

目指したのは、3DCGであっても、ジブリがこれまで培ってきた作品の延長線上にあること。その一方で、3DCGであったことで、ジブリの呪縛を破り、僕自身が今まで以上に好きに作ることができた。それは、『アーヤと魔女』というこのクセのある作品が、僕の性格にピッタリ合っていたからこそ。そう思います。

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プロデューサー:鈴木敏夫

アーヤはスタジオジブリの箱入り娘

この時代に何が求められていて、何が合うのか。企画を考えるのは非常に難しいものですが、宮﨑駿にはいつも感心させられます。『アーヤと魔女』も実は宮﨑駿の企画。毎月何冊も児童書に目を通している中で、「面白いから読んでほしい」と原作を勧められました。 宮﨑駿は引退を宣言しましたが、寝静まるかと思ったら大間違い(笑)。実は、今準備している『君たちはどう生きるか』とあわせて『アーヤと魔女』の企画も考えていて、自分で監督をやろうとしていたんです。その相談をされたときに「魔女ものもいいけれど、宮さんが今やるべき作品としてどうだろう?」と答えました。宮さんにしてもそれは分かっていて、確認ではあったと思いますが、それくらい惚れ込んでいたんです。そうしたら、吾朗くんに持って行った。もったいないから息子に勧める、ということだったんだと思います(笑)。

僕も原作を読みましたが、非常に面白い作品で、何よりアーヤのキャラクターがいい。ただ、時代性を強く感じたのは新型コロナウィルス以降なんです。3.11もそうですが、大変なことが起きたとき、世の中は変わる。アーヤには、そんな状況下で強く生きていくエネルギーがあった。宮﨑駿に感心すると同時に、吾朗くんにも非常に感心したんです。あのキャラクターを見事に描き切った。細切れのラッシュで観ていたときは、実は不安もあったんです。アーヤがかわいくないどころか、憎たらしい顔をしている。吾朗くんにもそれは言いました。でも全編を通して観たときに、そのアーヤがかわいく見える。これには驚きました。

アーヤの憎たらしさは誰かに似ていると考えてみたら、吾朗くん自身なんですよね。ものをつくる人は性格が悪くないとダメなんです。ある意味では、宮﨑駿も高畑勲もそうでした。ジブリで性格がいいのは僕だけ(笑)。それで言えば吾朗くんも、監督の条件を満たしている。本人は絶対そう言わないでしょうが、原作を読んだときからアーヤに親近感を抱いていたのは間違いないと思います。図らずも自分を主人公に映画を作って、そして面白いものに仕上げた。吾朗くんのそんな個性も今の時代にぴったり合っていたんだと思います。

キャッチコピーの「私のどこが、ダメですか?」は、あいみょんの楽曲(「〇〇ちゃん」)の一節にもあるフレーズですが、若い人が実際にそんなことを言っていたんです。なんで自分の優秀さが分からないんだろう、と。その言葉を聞いて、非常に現代的で面白いなと思いました。例えば今の20代は生まれたときからいいことに恵まれていなくて、不遇の世代なんですよね。賢さとパワーを必要としてきた世代で、ある意味ではアーヤなんです。だから、「私のどこが、ダメですか?」と言い切れる。

ダイアナ・ウィン・ジョーンズさんが原作を描くときに意識していたのは、おそらくアストリッド・リンドグレーンの「長くつ下のピッピ」。ピッピは“世界一強い女の子”と言われていますが、アーヤはさしずめ“世界一賢い女の子”。その魅力はどの世代に対しても訴えるものだと思います。

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音楽:武部聡志

この作品の音楽作りを依頼されたのは2018年。宮崎吾朗監督から「次回作は70年代のブリティッシュロックをベースにした音楽にしたい」とリクエストを頂いた。その後何度もデモ音源のやり取りを続け、やっと主題歌が決まり、この物語に登場する架空のバンドを結成しようという話になった。

ドラムにシシド・カフカ、ギターはGLIM SPANKYの亀本くん、ベースはMrs. GREEN APPLEの髙野くん、そしてボーカリストにはインドネシアの歌姫、シェリナ・ムナフという素晴らしいメンバーが集まってくれた。オケのレコーディングは2019年の1月、まさにバンドのようにスタジオで一発録り。メンバー全員が楽しそうに演奏していたのを今でも思い出す。

その後いわゆる、劇中の音楽作り、録音へと進んで行ったが、これもまた70年代ブリティッシュロックを意識しながらレコーディングした。僕らの創った音楽がアーヤを始め、魅力的なキャラクターに命を吹き込むことが出来たのならばとても嬉しいです。

そしてマンドレークは、僕にそっくりだと観た人全員から言われた。それもその筈、僕の演奏を全て映像に収めてアニメーションを作りあげてくれたのだから…。

試写を拝見したとき、予想以上の出来上がりに達成感を覚えました。ぜひ皆様も劇場で大画面、大音量で『アーヤと魔女』をお楽しみ下さい!!

歌唱:シェリナ・ムナフ

主題歌の「Don't disturb me」はキャッチーなメロディーで、とても楽しい曲です。ただ、初めて聴いたときは、こんなに速いテンポにのせて日本語で歌えるだろうかと心配になり、収録の当日まで毎日ひたすら練習を続けました。「あたしの世界征服」はカラフルでキュート。この歌はアーヤそのものです。さわやかで陽気、楽しくて幸せなメロディーなのですが、歌い方をひとひねりする必要があるなと思いました。アーヤならではの皮肉っぽさや辛辣な感じが言い表されていたからです。彼女は確かに愛らしい、でも無邪気なだけの子どもではありません。そんなアーヤが私はとても好きで、彼女のクレバーな部分を表現するように歌ってみました。

映画はジブリ最大の魅力を損なうことなくCGの技術を取り入れ、新しい境地を切り開いています。そんな歴史的なこの作品に参加できたことを、とても光栄に思います。ジブリならではのアニメーションの質の高さはもちろんのこと、音楽もまた魅力たっぷりです。生き生きとしたビートを楽しみながら、小さくてもパワフルなアーヤの冒険をぜひ一緒に楽しみましょう!

ギター:亀本寛貴(GLIM SPANKY)

最初演奏のオファーを頂いたときは「なぜ僕なんだろう?」と思いましたが、作品の世界観や楽曲のテイストを聴いて、とてもシンパシーを感じて腑に落ちましたし、バンドメンバーも近い世代の方々だったのもあって良いバンド感が出たんじゃないかなと感じています。

物語が一番盛り上がってくるタイミングで流れる楽曲は、レコーディング当日にギターソロを入れることになったので、アドリブでその場の勢いで弾きました。

全編通して本格的なロックサウンドに仕上がっているので、是非劇場の音響で体感してみて下さい!

ドラム:シシド・カフカ

私の音楽人生で、ジブリ作品に関われる光栄な機会を頂けるなんて!と、とても嬉しく感じていた反面、プレッシャーでレコーディングはガチガチ。ですが、武部さんをはじめ、素晴らしいミュージシャンの方々に助けられ、素敵な音が鳴らせました。

自分のドラムの音が『アーヤと魔女』の世界の一部に。そして演奏姿を何方向からも撮影し、私の手癖まで、映画の中で緻密に表現されています。

何ヶ月もかけ、丁寧に作られたこの作品。是非劇場で、大音量でお楽しみ下さい!

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